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最近、物騒なニュースが続いている。それにこの日本だけでも何らかの事件が毎日毎日繰り返されているのだ。事件のインタビューでは犯人について「まさか、こんなことをする人とは思えなかった」というのが常套句になっている。

たまにはニュース番組で"今日は一日平和でした"みたいなことはないのだろうか?

直樹は登校前の朝、いつもそんなことを考えていた。そもそも登校前、ましてや社会人は出社前である。そんな大事な朝から陰惨なニュースをテレビから流すのはいかがなものか?たとえ、その朝がささやかな嬉しさに満ちた日のはじまりだとしても、無機質なアナウンサーから放たれる、とてもよく聴き取れる物騒なワードはゲリラ豪雨の如く、急激に心が不安の雲に包まれる。みんななぜ、当たり前のように過ごせるのだろうか。

そして何より気がかりなのは直樹の住んでいる地域で、グループによる強盗事件が連続で発生していることだった。幸い、被害者に怪我人や死者は出ていないが、どうやら犯人達は拳銃を所持しているらしい。物騒なニュースが身近で起きているのだった。

普通の高校生は楽しいことを考えるのに時間を使うのだろう。いや、仲間たちに囲まれていれば、そんなことを考える時間なんてないのかもしれない。だが直樹にはこれといった仲間はいなかった。

でも直樹にも心の拠り所はある。同じクラスの小澤恵理奈だ。ひし形の顔に切長の目、髪型はショートカットという風貌である。そのショートカットはかなり短めながら、右耳に髪をかけている。そんな小澤はみんなの輪の中に入ってはおらず、威圧感を放つと同時にどこかミステリアスさも持ち合わせている。小澤はカッコいいのだ。孤高の存在だ。そして、その小澤が時折見せる笑顔に直樹は何もかも奪われてしまう。

だが近頃、小澤の笑顔が少しずつ失われている気がする。多分、何かあるかに違いないが小澤の性格上、自分の悩みを気安く相談するタイプではない。でももうちょっと心を開いてもいいだろうと直樹は思っていた。直樹だって大切な人が悩んでいるのならば力になりたい。直樹は決して強くはなく、これといってスポーツが得意なわけでもないが、それでも小澤の笑顔は守りたいと決心していた。たとえ恐ろしい強盗グループに襲われてもだ。でも小澤に対して、直樹は自分の"想い"を打ち明けられずにいた。

昼休み、教室から少し離れた廊下のベンチで、直樹と小澤は昼食をとっていた。ここが二人の指定席である。

そもそも小澤と親しくなったきっかけは、このベンチだった。友達のいない直樹は昼休みを教室で過ごすのがあまり好きではない。ある時、直樹がこのベンチで昼休みを過ごそうとしていたら、小澤が先に座っていた。直樹は小澤と同じクラスなので、すんなり隣に座ることができた。それから、なんとなくお互いに会話するようになった。最初はぎこちなかったけど、不思議と徐々に打ち解けていった。

小澤がコンビニの鮭のおにぎりを口に運ぶ。直樹は何気なく、「いつも、それ食べてるな。」と言う。

「別に、いいじゃん・・・。」

小澤のちょっと低い声がどこか少し心に突き刺さる。

「べ、別にいいんだけどさ、飽きないの?」

「うん・・・。」

そう答えた小澤はおにぎりを食べ終えて、ストローで紙パックのカフェオレの吸いあげる。そして、おにぎりの包装をレジ袋に丸めて入れ、袋の持ち手をそのまま縛った。

「えっ、今日はそれだけかい?」

以前はパンやサンドイッチも食べていた。

「最近、食欲がなくて。」

「それは良くないな。一日もたない。」

そう言って直樹は自分の食べているメロンパンを半分ちぎって、小澤に分けようとした。

「気持ちは嬉しいけど、大丈夫。」

「そっか・・・。」

小澤の目鼻立ちのはっきりとした横顔に、直樹はなんとも言えぬ儚さを感じた。

夕暮れの河川敷、直樹はひとり歩きながら小澤のことを考えていた。直樹は何か考え方をするときは必ずここに来る。

小澤が何かを抱えてるのは間違いなかった。だが、その抱えてる何かを追求することはできない。自分が小澤の彼氏でもないのに、そこまで踏み込むことはなんだか憚られるし、無理に追求すると避けられてしまう気がした。それに小澤は他人の手を借りることを拒んでいるようにも見える。でも、ひとりで抱え込むなんて苦しすぎやしないか・・・。誰かを頼ったっていいじゃないか・・・。

川のせせらぎに耳を傾けたところで、心が晴れるわけじゃない。直樹のもどかしい想いは絶え間なく続いていた。

直樹は偶然、土手の芝からニョキっと生えている朱い彼岸花が目に入る。

なぜか、その彼岸花がやけに美しく見えた。

朝のニュース番組ではまた事件を報じていた。もう正直言ってうんざりする。アナウンサーはさも、深刻な表情で事件の内容を読み上げていく。どうせ次のコーナーでは「エヘヘ」と、笑ってるんだろう。

だが幸いここ最近、強盗事件は発生していなかった。もしかしたら、別の地域に逃亡した可能性がある。とにかく物騒な事件はもうこれで終わりにして欲しかった。

昼休みになり、いつものように直樹は小澤と過ごす。小澤はコンビニのビニール袋から、紙パックのカフェオレを取り出す。いや、"それだけ"だった。

「おい、飯はないのか?」

流石にまずい。そういや、小澤に笑顔はおろか表情も暗い。

「えっ・・・、まぁ、無いの・・・。食べたくない・・・。」

食べたくないって・・・。直樹の心配は頂点に達した。

「最近、様子が変だ。どうしたんだ?」

小澤は黙った。互いに口を発さない、どこかピリつきながらも、乾いたこの間が轟音の稲妻が落ちる前触れのようで、とても居心地が悪い。そんな時に限って教室の騒がしい声が響き渡ってくる。

小澤は「関係ないでしょ。」と、冷たく突き放した。

直樹は分かっていながらも、小澤にそれを聞いてしまったことを後悔した。確かに出過ぎたマネかもしれないが、彼氏ではなくとも、目の前の"友達"が困っていたら、手を差し伸べるのが人情ってものだろう。でも自分の下した判断は間違ってはいないが正しくもなかったようだ。

小澤は完全に人の手を借りることを拒んでいる。小澤はこのままひとりでボロボロになっていくのだろうか?それになぜ、ひとりで抱え込む?。

そんなことを考えた瞬間、小澤は飲みかけのカフェオレをゴミ箱に捨てるなり、その場から去ってしまった。

一人残された直樹はまだ昼食を食べ終えてなかった。いつものメロンパンを一口食べたが、まったく味がしない。しかも口の中の水分が全て奪われるという、なんとも相性が悪いのだろう。直樹は慌てて、ペットボトルのお茶で口の中のメロンパンを流し込む。直樹は小澤のように食べかけのメロンパンをそのままゴミ箱に捨てた。勿体無いけど、今は食べたくなかった。

このまま教室に戻ると小澤と鉢合わせしてしまうので、残りの時間を屋上前の階段で過ごすことにした。階段ならば座れるし、屋上には鍵が掛かっているため誰も来ない。今はとにかく、人のいない所で過ごしたかったのだ。

直樹はコンクリートの階段に腰を下ろし、身体を前屈みにしながら、組んだ腕を両膝に置く。何気なく顔を上げると、窓からの日差しがとても強かった。誰もいない、自分だけの世界の静寂。それはまさにさっき自らが小澤に犯してしまった罪を厳粛に裁かれてるようた。

このまま、しばらく時がすぎる。

直樹は考えた結果、贖罪のために放課後、小澤に自分の気持ちはぶつけることにした。いや、それしか思いつかなかった。たとえ愚策だとしても、このまま何もしなければ、状況がもっと悪くなる気がしたのだ。

昼休み終了間際、予鈴のチャイムのタイミングで教室に戻ると、小澤は席に座っていた。

普段も授業の内容が頭に入らないが、今日はいつも以上に頭に入らなかった。

放課後になり、帰り支度をするクラスメート達。みんな、これから放課後ライフを満喫するつもりだ。そんな中、直樹は意を決して小澤に声をかけた。

「小澤!!」

こちらの呼びかけに反応したものの、小澤はそのままカバンを持って急いで教室を出ようとする。直樹は咄嗟に小澤の左手首を掴んで、引き止める。直樹はこんな事をしている自分に驚いてはいたが、今さら引くわけにはいかない。

「離して!!」

「頼む、俺の話を聞いてくれ!!頼むから!!」

直樹は小澤の目をまっすぐ見つめる。人もまばらではあるが、この状況に周りのクラスメート達は驚いている。

「すまない、大声出して。でも、どうしても話を聞い欲しいんだ・・・。」

直樹はそう言って、思わず掴んでしまった小澤の手首を離す。

「わ、分かった・・・。帰りながらでもいい・・・?」

どうやら気持ちが通じたようだ。

直樹は小澤の帰り道について行き、その道中の公園に寄ることになった。

小澤は公園のベンチに座り、直樹はそのまま隣に座った。昼休みとまったく同じシチュエーションである。

「話って何?」

「小澤の触れられたくないことを詮索したことは謝る。でも、俺はどうしても小澤のことが心配になんだ。その理由を聞いてくれ・・・。」

「理由?」

「小澤が俺のことをどう思ってるかは分からない・・・。でも、俺にとって小澤はただの友達じゃない・・・。」

「えっ・・・?」

感情を表に出さない小澤が動揺している。

直樹は小澤の目をしっかりと見つめる。

「小澤が苦しめば俺も辛いんだ。だから・・・、その・・・、俺は小澤の力になりたいんだ!!」

直樹はそう言って小澤の両肩を掴んだ。小澤は直樹に胸に飛び込む。

直樹は恵理奈を強く抱きしめる。それに合わせて恵理奈も力が強くなる。

そんな細い肩で、ひとりで背負うなんていくらなんでも辛すぎるだろう・・・。

「一体、何があったんだ?」

恵理奈は俯く。そんな恵理奈を直樹はじっと見つめる。やはり、それを話すのには勇気がいるのだろう。直樹は恵理奈が話し出すのをじっと待ってた。

「あのね・・・。」

やっと恵理奈はその口を開いたが、その声はか細かった。直樹は恵理奈を顔をしっかりと見てうなずいた。

「私が小さい頃、ママが死んじゃったの・・・。だから、パパがひとりで育ててくれた。昔のパパはとても優しかった。でも、少し前にパパの会社が潰れてちゃって、パパは変わった・・・。お酒に溺れて、私に当たるようになった・・・。本当だったら、アルバイトでもしてなるべく、家にいる時間を減らそうとか考えたんだけど、それでもパパが心配で・・・。毎日毎日、ボロボロになってくようで・・・。」

恵理奈はそう言って泣き出した。まるでダムが決壊したように。今までの苦しみは相当なものだったのだろう。だが、それをこちらがいくら想像しても、本人が感じた悲しみには到底及ばない。だから、泣いている恵理奈をもう一度、抱きしめるしかなかった。

ひとりで背負うことはない。何のために俺がいると思う?

直樹は心の中である"決心"をした。

「家を教えてくれないか?」

「えっ・・・。」

戸惑う恵理奈。

「いや、これから家に入るとか、そういうことじゃなくて、何あったとしたら、すぐに駆けつけられるように一応、知っておきたいんだ。」

「分かった。一緒について来て。」

直樹は恵理奈の家が学校から近いことは知っていたが、詳しい場所についてはよく分からなかった。

「行こ・・・。」

恵理奈は左手を差し出す。直樹はうなづいて、恵理奈から差し出しされた左手を、右手で握る。直樹は恵理奈と手を繋いだことで、初めて自分の存在がこの世に認められた気がした。でも決して、この状況は楽しいものではないが・・・。

恵理奈は住宅街のなかにある、黒い屋根と灰色の壁の二階建ての一軒家を指差した。外観はものすごく立派な造りであったが、その主(あるじ)はどうしょうもない人間である。皮肉なことに。

直樹は恵理奈の家を指差して、「今、いるのか?」と尋ねる。

「多分、居ると思う・・・。」

直樹は恵理奈の"多分"に全てを賭けた。直樹は恵理奈の手を離し、家に向かってダッシュした。背後から恵理奈の「待って」と引き留める声が聞こえるが、そんなことはこの際無視するしかない。ドアノブをガチャガチャやると、鍵は閉まっていなかった。またとないチャンスだった!!直樹は履き慣れた運動靴を手も使わず、足だけで脱ぎ捨てて、居間に向かった。

「あん?誰だお前?騒がしいヤツだな・・・。」

そこにはソファーにもたれ掛かり、テーブルに足をかけている、ひとりの娘の父親であることを忘れたグレーのスウェット姿の哀れな中年の男がいた。直樹は黙ってその男を睨んだ。

すると、血相を変えた恵理奈がやってくる。

「おい、恵理奈!!なんだコイツは!?お前の男か?こんな礼儀も知らねぇヤツを連れてくるんじゃねぇよ!!」

その言葉に直樹の怒りは頂点に達した。

「オレはアンタに言いたいことがあってここに来た!!」

「あん!?なんだ言ってみろ!!」

哀れな男はそう言ってソファーから立ち上がり、ビールの空き缶を投げつけてきて、左肩に当たる。そんなものなど痛くも痒くもないが、一瞬、アルコール特有のつんとした臭いがした。

「アンタに父親の資格はない!!いくら自分が大変でも自分の娘に当たるのは許せん!!いや、絶対に許さない!!」

「なんだと!!コラァ!!」

そう言って直樹に掴みかかる、哀れな男。

「やめてよ!!二人とも!!」

泣き叫ぶ恵理奈。

直樹と哀れな男はお互いに胸ぐらを掴み合っている。その瞬間、直樹は肋あたりに強烈なボディブローを食らう。息ができなくなり、あっけなく戦意喪失してしまう。そう言えば、自分の親父にも殴られたことはなかった。

その場でうずくまる直樹は制服の襟を掴まれて、顔面に何発もパンチを喰らう。

恵理奈が全力で哀れな男を制する。直樹はなんとか逃げ出すチャンスを得て、恵理奈の手を引っ張り、家を飛び出した。

無我夢中で走ると、さっきの公園にたどり着いていた。あたりはすっかり暗くなっている。公園の外灯が暗闇を照らす。

ベンチに座る直樹と恵理奈。

「私のためにこんなことに・・・。」

直樹は何発も顔を殴られ、自分の顔がどうなっているかは分からないが、多分、肋は辺りは軽く骨折はしているようだった。

直樹はただ黙るしかなかった。

自分の痛みなんかどうでもいい。だがこんなに苦しんでる"彼女"がいるのに、自分の力だけではどうすることもできない。こんな世の中は確実に腐っている。直樹はただ悔しかった。この悔しい気持ちを口に出すことすら、今の直樹にはできなかった。

恵理奈は黙って直樹の左手の上に右手を置き、そのまま握る。直樹は恵理奈の優しさを感じながらも、それに浸ることはできなかった。直樹は俯いた。それにこのまま恵理奈を家に帰すわけにはいかなかった。もし、このまま恵理奈を家に帰してしまったら、逆上した父親によって一体どんな目に遭わされる分からない。

直樹は顔を少しだけ上げた。すると遠くの茂みに違和感を感じる。直樹はベンチに座りながら、茂みの方を見続けた。

「どうかしたの?」

「いや、なんか、茂みの方に何かある気がする・・・。」

立ち上がった直樹は恵理奈を連れて、茂みに向かった。

茂みに近づくと、茂みの向こうで靴が二つ縦になり、その先に何か伸びているのが見えた。

いや、ちょっと待て、これは人だ!!

直樹と恵理奈は急いで茂みの向こうに向かうと、黒のロングTシャツに黒いズボンという、いかにも怪しい男がうつ伏せで倒れていたのだ。背中には血が染み、地面には血溜まりができていた。それを見た恵理奈は口を手で覆い隠して震えている。

直樹は男が血を流していることに捉われていて、なかなか気がつかなかったが、よく見ると男の右手には拳銃が握られていた。

ここで撃ち合いがあったのだろうか?

直樹は意外に冷静にこの状況を受け止めていた。しかし、ぐつぐつと心の中で何かが再沸騰してくる。

自分の目の前に一丁の拳銃がある。

拳銃・・・。

拳銃があれば、自分よりも強いものを一発で仕留めることができる・・・。自分よりも強いもの・・・。自分は決して強くはない・・・。でも、拳銃さえあれば一発で殺せる・・・。そう、一発でいいのだ・・・。一発で!

さぁ、誰を殺す・・・?

直樹は恵理奈に目をやる。

そうだ、アイツしかいないだろう!!この世はまだ腐っちゃいなかったんだ!!

直樹は倒れている男の拳銃を取り、すぐさま走り出す!!

「待って!!」

恵理奈の声は今の直樹に届かない。それはさっきも同じである。

銃の正しい使い方なんて分からない。ただ引き金を引けば、確実に弾丸は発射される。そうすればアイツを殺せる。アイツは生きていてはいけないんだ!!

直樹は急いで恵理奈の家に向かう。背後(うしろ)なんて振り返っている暇はない!!

直樹は恵理奈の家にたどり着く。運良く、また鍵はかかっていない。愚か者め。そのセキリュティ意識の低さが仇となったのだ!!直樹は土足で居間に侵入。すると、哀れな男が台所の冷蔵庫の前にいた。手に缶ビールが握られている。

「また、お前か!!」

しかし、哀れな男は直樹の手に握られている物を見るなり、様子が変わった。

「お、おい、ちょっと、待て・・・。」

おいおい、さっきの威勢の良さは何処に行ったんだ?お前は本当に哀れなヤツだ。

「な、なんでそんな物騒なモノを・・・、いや、オモチャだろう・・・!?」

「これがオモチャに見えるか?だったら、試してみるか!?」

直樹の凄みにいとも簡単に圧倒されてしまう哀れな男。直樹は震える手で銃口を哀れな男に合わせる。

「や、やめてくれ、なぁ!わ、わかった、これから恵理奈に優しくする!!なぁ、だから撃たないでくれ!!」

命乞いのためにそんなことを言ってもダメだ。もう、遅い!!

「覚悟しろ、この毒親野郎!!」

「やめて!!」

恵理奈がやってくる。

「来るな!!コイツは生きていてはいけないんだ!!君の人生を蝕むダニと同じなんだぞ!!この野郎は君の父さんなんかじゃない!!最低のクズだ!!」

「今はそうかもしれない!!でも、昔はそうじゃなかったのよ!!」

何故、庇う?自分がコイツに苦しめられているのに・・・。

「え、恵理奈、コイツを止めてくれ!!頼む!!」

ますます死んだ方がいい。自分が助かりたいがために娘に懇願するとは。

直樹は震える手で銃口を向け続けた。

「こんな解決の仕方は間違ってるよ!!正気に戻って!!」

「じゃあ、他にどんな解決の仕方があるっていうんだ!!」

もう後には引けない。

「や、やめてくれ・・・。」

「その人は私のパパなの!!何があっても!!だから、殺さないでお願い!!」

私のパパ・・・。

直樹は銃を構えながら、背後にいる恵理奈に目をやった。

「お願い・・・。」

恵理奈は涙を流して、自分を酷い目に遭わせている父親を必死に救おうとしている。なんて優しい子なんだ。そうだよな、何があってもパパに変わりないよな・・・。

アレ・・・、腹がなんか変な感じがする・・・。そう思った瞬間に気づいた。たった今、恵理奈の父親に包丁で刺されていたのだ。

「いやあああああー!!」

恵理奈の絶叫が響き渡る。

直樹は刺されながらも、左腕で父親をヘッドロックで押さえ、逃さないようにした。そして父親のこめかみに銃口を当てて引き金を引く。パンと音をたてて、薄汚れた壁が真っ赤に染め直される。直樹も返り血を浴びているが、もはやどれが誰の血かも分からない。そして左腕の力を抜くと、父親は遊び終えたマリオネットのようにクタッと床に崩れ落ちる。

恵理奈は放心状態で、膝からその場にへたり込んでいる。

ごめんよ、恵理奈・・・。

直樹は腹を押さえながら、その場を飛び出す。

なぜだか無性に川に行きたくなった。
直樹は川に向かうが、少しずつ自分の感覚がおかしなっていく。ふらふらして真っ直ぐ走れない、視界が霞む、頭がぼーっとする。

「あと少し、あと少しだけ、もってくれ・・・。」

一人呟いたが、その声に力はない。

人通りのない夜道、直樹は自分の生命をぽたぽたと流していることを自覚しながら、必死に歩む。

やっとの思いで川の土手にたどり着く。もはや、足の力では土手の傾斜を登り切ることはできない。必死に手を突きながらも這い登る。血だらけに泥だらけ。直樹は土手を登り切り、左手で腹を押さえながら川の流れを眺める。

「恵理奈・・・。」

やっとの思いで伝えた気持ち、束の間の彼女・・・。直樹の頭の中では自分の人生の決定的瞬間がジェットコースターのように駆け巡っていた。

だが、舗装されたアスファルトに真っ赤な血がポタポタと垂れ落ちている。これが直樹が犯した本当の罪を物語る。

直樹は目をつぶると同時に全ての力が抜けて、土手から転がり落ちる。川岸の草むらに倒れ、それからピクリとも動かなかった。

川のせせらぎが絶え間なく続き、朱い彼岸花が咲き誇っている。

朝のニュース番組で連続強盗グループが仲間割れを起こしメンバーのひとりが射殺され、その後、その現場付近で高校生が同級生の父親を銃で殺害し、死亡するという事件が報じられた。
インタビューではその高校生について周囲の人物は、「まさか、そんなことをするとは思えなかった」と答えていた。

そして、アナウンサーはニュースを読み終えると、次のコーナーで笑顔を振りまいていた。